「良いものを大切に長く使うこと」
父が私に教えてくれたことの一つです。
友だちの間で流行っているモノ、みんなが持っているモノ、父は私にそういったものを何でも買ってくれる父親ではありませんでした。そのかわり、少し値段が高くても、良質で、私が心から気に入ったものであれば、「大事に使えよ」と言って、買い与えてくれました。
そうして買ってもらったレザーのハイカットのコンバース。私は嬉しくて、それを相棒のようにして毎日履いていたことを思い出します。月日が経って、だんだんと年季が入っていっても、好んで履くのはこのコンバースばかり。「お気に入り」と毎日を過ごす喜びを子どもながらに知りました。
父は、ひとたび気に入れば、気づけばそればかり身に着けてしまう、使ってしまう、そういう人でした。先のコンバース然り、私も同じ気質を受け継いだようです。
現代はありとあらゆるモノに溢れる時代となりました。でも、結局のところ、日々を楽しく彩ってくれるモノ、ふとした時、目に入り、手にした時ほっとするような小さな喜びを感じることが出来るモノって、「お気に入り」なモノたちではないでしょうか。
ikususuは、父が生んだブランドです。シンプルでスタンダード、けれどホンモノの素材だからこそ、時を刻みながら味わいが深まる。そしてそれを楽しむ。イクススの家具の魅力の一つです。ホンモノ志向というと、少し大げさに聞こえるかもしれません。けれど、イクススが目指すのは、トレンドや見た目だけのオシャレではなく、「気取らない」ホンモノ志向です。
安価でオシャレなものが、次々と簡単に手に入る便利な世の中に私たちはいます。それ自体を否定するわけでは決してないけれど、私たちイクススが目ざす「モノと人」の関係は、「良いものを大切に長く使うこと」。そして一緒に時を過ごすにつれ、なんだか愛着が湧いていくような、そんな関係。「お気に入り」のモノは、日々の暮らしにふとした喜びを添えてくれる。商品と一緒にそんなモノとの付き合い方や価値観を多くの人に届けるブランドでありたいのです。無垢材と天然オイル仕上げによるイクススの家具は、使い手の暮らしのスタイルによって、千差万別、時を刻むにつれ、その表情を変えていってくれることでしょう。育てるごとに愛着が湧いて、いつしか「お気に入り」になってもらえる、そんな商品を作り続けてゆきたい。父なき今、イクススがイクススであり続けるゆえんはここにあると、私は思っています。
父が残したイクススには、長きに渡って培われた盤石な技術と、作り手としての誠実さを忘れないベテランの職人がいます。地方の小さな製造業者にとっては、苦しい時代となってゆく中で、父と一緒にイクススの家具を作り続けてきてくれた職人たちです。そして今、木工と家具、ものづくりが大好きで、その作り手になりたいという志を持った若手のメンバーが新たにイクススに加わりました。みな、好きな仕事に携わって、お客様に喜んでもらえるよう、質高く愛される商品を生み出すために、日々、切磋琢磨しています。文字通り、老若男女、それぞれに個性あふれる愉快で心あるメンバーは、イクススというブランドを構成する要素の中でも私の「お気に入り」な部分であり、心から誇りに思っています。
父の残したイクススと、新しく生まれ変わるイクスス。目に見える形やメンバーが代わっても決して変わらないものがある。軸足だけぶれることなく、深く根を張って、より伸び伸びと青く枝葉を伸ばしてゆきたい。これが父からバトンを受け取った私の今の願いです。そしてこの願いはひとえに、イクススが誇る職人と、なによりイクススの商品を気に入って選んでくださるお客様があって叶うものだと実感する毎日です。
これまでのイクスス、これからのイクスス。岐阜の小さな会社ですが、商品はもとより、サービスや社員も含めて、みなさまに愛される大樹となれるよう、ますます成長してゆく所存でございます。今後とも長きに渡ってご愛顧いただけますことを心より願っております。
2020年10月31日
ikususu FURNITURE
株式会社ダイマツファーニチャー
代表取締役
田中 翠